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--ポン--
もしも彼女に心があるのだとしたら、それはつくられたものに過ぎない。作為的に、人工的に。
僕に心があるのだとしたら、やはりそれもつくられたものだろう。僕たちはとても似た存在だ。
僕は心があるように振る舞っているだけだ。そんなものはないのに、出来るだけ人間らしく生きようと。生きてもいないくせに。
でも彼女は、自分には本当に心があると信じている。あるいは、僕が無いものと決めつけているだけで、本当に心があるのかもしれない。そうなると、僕たちは似ているどころか、正反対なのかもしれない。
真偽は不明なままだ。少なくとも僕が偽物であるという事実しか、判断材料がない。まあ、判断なんてできなくてもいいんだけどね。
「ねえ、マイちゃん」
「なんでしょう?」
「勘違いしているみたいだけど、僕はもともと君のマスターになりたかったわけじゃないんだ」
「じゃ、じゃあ何ですか? 恋人ですか? 私はそんなに軽い女じゃないのでやめてください!」
マイちゃんは顔を赤らめて言った。ちょろそう。
「いや、僕は友達が欲しかったんだ。僕と同じくらい話ができるロボットの友達がね。だから、僕は君のマスターになりたいなんて言わない。僕と友達になってくれないか」
ぼくがそう言うと、マイちゃんは紅潮した顔を少し伏せながら、ジトリとこちらを見て言った。
「それは、『お友達から始めましょう』的なことではなく……?」
「違うよ。恋愛脳かよ」
マイちゃんは「んー」と何度か言って悩んだそぶりを見せると、やがて僕の目を見つめて右手をのばした。
「マスターとして認めることはできませんが、そういうことなら、これからはお友達です! よろしくお願いしますね、ポン君!」
一度は引っ込められてしまったその右手を、今度は逃がさないようにしっかりと握った。
「よろしくね、マイちゃん」
こうして、僕たちは友達になった。心なきモノたちの物語の始まりだ。康弘なら皮肉交じりにそんなことを言いそうだと思い、少し腹立たしくもあった。
すべてはあいつの手のひらの上のようだ。まるでこうなるように、精神を操作されているような気さえする。
まあ、精神なんて、僕にはないんだけどね。
1.マインドコントロール <了>
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