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--ポン--
僕が目を覚ますと、そこはベッドの上だった。左腕からは太めのチューブが一本伸びている。それを覆い隠すように貼られているはずだったガーゼが剥がれかけていたので、右の手のひらでペタペタと押し付ける。
あたりを見渡すと、白いカーテン、白い壁、白い天井など、特に面白くもない白色に包囲されている。僕の家ではないけれど、僕の家みたいになってしまったこの部屋。こんな生活を始めてから、もう随分と時間がたってしまった。
沈黙が嫌になってテレビの電源をつけると、面白くもない芸能人に密着取材したドキュメンタリー番組が流れた。でも、何もつけないよりはマシだった。
横になってそれを眺めていると、部屋の扉が三回のノックの後、ガチャリという音を立てて開いた。音のした方へ目を向けると、白い服を着た女性が立っていた。
「あらポンさん、まだ起きてたの?」
彼女、田口さんは僕のニックネームを呼んだ。面白くもないニックネームだ。
「違うよ。今起きたんだ」
「こんな時間に?」
「何時に起きたって僕の勝手だろ」
「それもそうね」
田口さんは僕の行動に理解を示してくれる数少ない人間だ。
「で、田口さんこそ何でこんな時間に僕のところへ来たのさ」
「廊下を歩いてたらテレビの音が聞こえて、つけっぱなしにして寝ちゃったのかと思って」
「ごめん。もっと音量を下げるよ」
「いえ、そのままで大丈夫よ。あと起きてたら一つ聞きたいことがあったの」
「聞きたいこと?」
「もうすぐ誕生日でしょ。欲しいものとかある? それとも例年通りプレゼントは要らない?」
欲しいものは何か。この問いは、僕にとって超難題だった。面白くもないことに、僕が欲しいものは、おおよそ手に入らないものばかりだからだ。
「うーん、もう少し考えてみるよ」
「急かすつもりはないわ。一年くらい考えてもいいからね」
彼女はにこりと笑って言った。面白くもない。
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