1.マインドコントロール

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「それにしても、ポンさんもこの番組好きだったのね。私も好き」 田口さんはテレビを指差した。こんな番組を見るのは初めてだし、好意的な印象なんて欠片もないけど、「へぇ、そうなんだ」と相槌を打った。 『絶体絶命の危機が襲来! CMの後、彼の生死はいかに――!?』 「ああっ! いつも良いところでCMに行くんだから……」 テレビのナレーションを聞いて、彼女が身もだえた。「身もだえなくとも、死んだら放映できないから生きてるだろ」と思ってしまった。 「今週は生き残れるのかしらね……」 「え? 先週は死んだの?」 この番組に少しだけ興味を持ってしまった瞬間だった。 『家政婦からお友達まで、あなたの為なら何にだってなれる! あなたの為のロボット、「マイロボ」がお手頃価格で登場! 詳細はウェブで!』 番組への興味が冷めやまないうちに飛び込んできた宣伝は、こんなうたい文句で人々の購買欲を掻き立てる。まあ、本当に掻き立てられるのかは知らないけどね。 「ロボットも安くなったもんだね」 「技術が進歩すれば、良いものも安価につくれるようになるものよ」 「とうとうロボットに職を奪われちゃうんじゃないの? 面白くないね」 「私は働きたくないからいいけど」 「奇遇だね。僕だって働きたくない」 僕はマイロボのウェブページを開き、スペック表を眺めた。様々な機能、性能が示されていたけど、一番目を引いたのはこれだ。「類を見ないほど人間味を帯びたAIを搭載」。 「人間と区別がつかないって評判らしいわよ」 「いつか読んだSF小説みたいだ」 「時代がSFに追いついちゃったってことね。これからのSFはいったいどうなるのかしら」 僕は、「さあね」と言って首を横に振った。 スペック表を続けて読んでみると、保証耐用年数は10年と書いてあった。これは極めて長い年数だ。さらに、今後100年の有償サポートが確約されているという。 「これがいいかな」 僕が田口さんに向かってそう言うと、彼女は少し考えたそぶりを見せたが、結局答えは出なかったようで、「え、何の話?」ときいてきた。 「今年の誕生日プレゼントだよ。だめかな」 こうして僕の誕生日プレゼントは、マイロボに決まった。
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