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康弘のことだから、ただの嫌がらせでここに来たわけではないことはわかる。何か裏があることは明白であったが、その裏まで読むことはできなかった。
その裏が読めない現状で、康弘の計画をに乗らない方法は、一つしか思い浮かばなかった。
「この契約は破棄だ。返品だ。帰れ」
「ハキ……?」
康弘の後ろでマイちゃんが不安そうに声を出した。
「そうかい、わかったよ。マイ、帰ろうか」
康弘はやけにあっさりと引き返そうとした。おかしい。僕の知る限り、康弘は一度狙った獲物には死んでも食らいつくような男だ。見えている罠だった。しかし、僕はそれを勢いよく踏み抜いた。
「やっぱり待て。返品されたマイロボはどうなるんだ」
康弘は白い口髭の下でニタリと笑うと、待ってましたと言わんばかりに僕にこう告げた。
「どうなるって……廃棄さ」
「ハイキ!?」
マイちゃんは初耳だったようで、大声で叫んだ。
「もう君という顧客情報がインストールされてしまったからね。もちろん見かけ上削除することは可能だが、ご存知の通り、記録装置上の削除されたデータは簡単に復元することができる。顧客のプライバシーを守る意味で、記録装置は物理的に破壊するしかない。溶鉱炉にまるごと突っ込むさ」
「アイルビーバーーーーーック!!」
マイちゃんが頭を抱えて叫んだ。悲しんでいるのかふざけているのか、もう判断はできない。
さて、康弘の言っていることは本当なのだろうか。あの嘘吐きのことだ。八割がた嘘であるだろう。しかし、嘘でなかったとしたらどうだろう。本当にマイちゃんは消されてしまうのだろうか。
「マスター……」
マイちゃんが何かを懇願するように涙目で僕のほうを見た。
「ちなみに、廃棄する場合にはそれ相応の手数料はいただくからな」
「あ、じゃあ契約で」
「そんなにあっさり!?」
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