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夜中、就寝中の両親から隠れるように息を殺して忍び歩く。
イズルハの歩く地面は不思議と音を鳴らさない。
戸からではなく、窓から屋根へと上り、世闇に紛れ、目を暗闇に慣れさせる。
紛れると共に目が慣れるというその間僅か一秒未満。
一流の盗賊は自然とこれが出来なければやっていけない。
それに、仮にも勇者パーティーの一人として活躍したイズルハだからこそ、夜に出来る鍛練というものもきちんとこなしていたのだ。
動作は全てが完成されており、鍛練と言っても一挙一動を幼い体に合わせてズレを修正する程度のものでは有ったが……。
屋根から屋根へと渡り歩く際にも音は鳴らない。
着地の際にも音を鳴らさない。
どんなに走ろうともーー
ーー静寂に紛れるのだ。
イズルハの目的の場所は村長の家だった。
ここで、雇われている傭兵達は体を休めている。
とはいえ、目的の人物は村長ではなく……。
とある人物が休む一室を訪ね、そして戸を薄く開いた時、目的の人物ともう一人傭兵が目を開き、得物を手に警戒をしていた。
これは、イズルハが盗賊の視線に気付けたのと同じで、この戸を開く直前に完全に消していた気配を僅かながらに出したのだ。
イズルハの気配に気が付けたのは2人だけーー
一人は目的の人物。
もう一人は恐らくーー
ーー盗賊ギルドの人間だろう。
その人物の顔を注意深く観察し、戸を閉めた。
ゆっくりと離れていき茂みへと身を隠す。
すると、誘い出されるように目的の人物が刀と呼ばれる剣を手に目を細くしてイズルハの隠れる茂みを睨み付ける。
イズルハはそこからとある物をその人物へと投げる。
それは一通の手紙である。
内容は……。
『村の子供を一人預かった。
返して欲しくばこの事を他言せず、一人で村の裏の洞窟へ来られたし。
他言すれば子供は殺す。
何者かに気が付かれても殺す。』
イズルハはそこから完全に気配を絶ちきり、茂みから離れていくと、裏山へと走る。
「これで、話をする環境が整えば良いが……。」
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