12人が本棚に入れています
本棚に追加
さとみと散歩に行けるのはとても嬉しいのですが。
涙が出るくらい幸せなのですが。
…最近どうも疲れやすくて。
あんまり長いこと歩くと息切れがしますし。
まるで目の前に白い膜が張られたようになってしまって、もともと良くなかった視界がさらに悪くなってしまいました。
「茶色くてふわふわでホットケーキみたい!」とさとみに言われた自慢の毛並みも、何だか最近ゴワゴワしてきてしまってますしね…。
だから今はちょっとだけ眠らせて下さい。
とても心地よく眠れそうです。
目の前がすごくキラキラとしてて美しくて、今までに感じたことのない空気が、私の体を包みこんでいるのです。
この家で暮らせて良かったです。
さとみと一緒に大きくなれて良かったです。
お父さんもお母さんもお兄ちゃんも、みんなみんな大好きです。
もしも願いがかなうなら、今度生まれ変わった時は、みんなと同じにんげんが良いですね。
そしてまた、さとみと出会いたいです。
同じ姿形に産まれ。
「わん」ではなく、「さとみ」と名前を呼んで、同じ速度で歳を重ねていきたいです。
「みなみ!」
私を呼ぶ声がします。
「…みなみ?」
私の大好きなあの声。
しかし私は起きあがることができずに、静かに横たわっていました。
穏やかな陽射しに包まれて。
生涯でもっとも愛した人の声を聞きながら。
私は幸せな眠りにつきました。
最初のコメントを投稿しよう!