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「薬をもっと持ってこい!」
「下手人は捕らえたか?」
「まだ辺りに潜んでいるかもしれぬ!」
伴の者たちが叫ぶ中、色を失った皇帝は毛皮を半ば以上血に染めた側妃の小さな手を握り締めた。
「大丈夫だ、すぐに内裏に戻る」
まるで熱を注ぎ込むように自らの両手で側妃の冷たくなっていく手を覆う。
「陛下はご無事ですか」
薄化粧を施しただけの女は苦しい息の下から精一杯微笑んで尋ねた。
「大丈夫だ」
青年皇帝は横たわっている女の小さな顔を撫でる。
「良かった」
夫を見上げる側妃の、いつも微笑んで見える柔らかに切れの長い目のすぐ下にポツリと滴が点った。
身を寄せ合った二人の上に透けるように白い欠片が静かに舞い落ちてくる。
虚ろになっていく瞳の女は呟いた。
「雪が、羽根のようですね」
「六花」
皇帝は自らの纏った豪奢な毛皮が汚れるのも構わず血染めで息絶えていく側妃を抱き締めた。
「何故そなたまで」
赤子のように顔をグシャグシャにして泣く。
「わしを置いていかないでくれ」
雪が次第に激しさを増していく中、二人を囲む伴の者たちは黙して見守った。
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