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地下鉄の車内、真新しいスーツを着た二十二歳の關瑞華はシートに腰掛けてしばらくモニターに表示されるニュースを見上げていたが、ふと正面を向き直って固まる。
向かいのガラス窓には、結い上げた長い髪には白玉の飾りの付いた簪を挿し、冬の遠駆け用の毛皮を纏った、顔は自分と生き写しの后妃が映っていた。
だが、それ一瞬のことで、次の瞬間には元通りスーツを着た自分の姿に変わった。
ほっとまだ大学生の瑞華は息をつく。
昨夜は妙な夢を見た。
幼い頃から弟のような遊び相手だった少年が長じて帝位に就き、父の死後は不遇に暮らしていた自分は下位の側妃として召し出される。
しかし、そこで目にしたのは後宮という女性たちの息詰まるような哀しい世界であった。
柔弱で孤独な年下の皇帝に寄り添いつつ、憎しみや権謀の渦巻く後宮での生活に疲弊し、住んでいる宮殿の庭での花作りと二人だけの遠駆けの時間に安らぎを見出すようになった。
だが、後宮に上がって五年目の年の暮れ、遠駆けをしていた正にその時、何者かの放った矢に当たって命を落とした。
目が醒めた後も、あの人を遺してきてしまった悲しい気持ちが胸の痛みと共に残った。夢の中でしか知らない人なのに。
不意に車窓の風景がパッと明るい駅の構内に切り替わった。
大量に乗り込んでくる客と入れ替わるように瑞華は立ち上がって降りていく。
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