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「ゆず、最後のわがままきいて」
「なに?」
「キスして」
美波は顔を上げた。視線が、薄く開いた艶やかな唇に引き寄せられる。女性として意識を向けていることをあらためて自覚して、優月の頬が火照っていく。
「大丈夫、これは一生さん承認済みだから。だって『ファーストキスはゆずがいい』ってずーっと思ってたんだから」
「まじで言ってんの?」
願いを叶えてやってくれ、にはこんなものまで含まれているのか。優月は驚いたが、今更四の五の言う気はなかった。
「早く。人がきちゃうよ」美波は急かした。
「……なんかすごく緊張するんだけど」
軽い言葉を吐き出してはみるものの、鼓動はスピードを増していく。相手にもその緊張が伝わるようだった。美波の喉が動く。首を少し傾けて、目を閉じるのも忘れたままゆっくりと唇を合わせた。
「ゆず、ありがとう。いま私の夢がひとつ叶ったよ」
美波はかみ締めるように言った。
「一生さんはね、狭い世界で生きていたわたしに、たくさんの大切なことを気付かせてくれた人なの。これから先、もっともっと好きになっていくと思う。そんな予感があるんだ。わたし、必ず幸せになるよ。だから、ゆずも……、いつか誰かと――」
また瞳に大粒の涙を浮かべ、美波は言葉を飲み込んだ。
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