Pride one

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「なんか……、そんな風に考えたことなかった」 「結婚は決して後ろ向きな理由じゃなかったと思うよ。この表情にそれが出てる」  坂巻が優月の方に画面を向ける。改めて見る美波の弾けるような笑顔に、何故だか胸が熱くなる。 「確かに、やけくその結婚じゃこの表情はないですね」  神長も改めて画面を覗き込み、頷いた。  三段重ねになったセイロが運ばれてきて、優月はスマートフォンを自分の方に手繰り寄せた。神長が箸と手拭きを配り、食事の準備は万端だ。 「よし、じゃあ美波がちゃんと自由に生きてるか、今度みんなで見に行こうよ。ついでにまきちゃんの元カノとの思い出を塗り替える旅をしよう!」  しんみりした空気を破ろうと、優月が今しがたの思いつきを提案すると、神長がぴくりと眉を動かす。 「俺、その話知らないですね」 「ごめん。これはちょっとあんまり」  だが、坂巻は話す気がないらしい。仕事のトラブル対応に追われ、予約していた沖縄旅行を泣く泣くキャンセル。可哀想な彼女を慰めようとした、友人たちが飲み会を企画し、そこに参加していた男のひとりとそのままくっついたとか、業界あるあるすぎて、泣けてくる話だ。
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