Pride one

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「ねー、風呂どうする? 鍵かけて部屋ごとに貸切で使うやつだから、先入っちゃわない? 他のお客さんにはこれから食事出すから、今なら絶対空いてるし」優月が片手を高く上げて提案する。 「じゃ、今いこっか?」坂巻は神長に視線を投げる。 「ですね。ついでに食器も下げますか」とりあえず、と食器を重ね始めたところで、部屋の扉がノックされた。 「はーい」  返事をしたが、それっきり反応がない。優月が扉をがらりと開けると、小麦色に日焼けたポニーテールの女性が仁王立ちしていた。優月の幼馴染み、茂久田美波だ。 逞しい、という形容詞が何よりもしっくりくるのは、背丈に似合わぬ肩幅と、化粧っ気のないあっさりした顔立ちのせいかもしれない。 「帰ってきたときくらい、家の仕事手伝いなさいよ。成澤のおじさんとおばさん、ゆずに甘いから何も言わないけどそんなの常識だよ? これから配膳。冷める前に全部出すんだから手伝ってよ」  顔に似合わない甲高い声で、美波は言った。 「繁盛期外して帰ってきてるんだから、大丈夫でしょ。あとで食器洗いくらいやるよ」 「そんなの食洗器まかせじゃない。気持ちが感じられないわよ。もうちょっと親孝行しようとか思わないわけ? 今年の夏休みシーズン、『さざなみ』はすごく忙しかったんだからね」
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