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「知ってるよ、そんなの」
優月はふいと顔を背ける。怒りたければ勝手に怒ればいい。両親はそもそも手伝いなど望んでいない。美波に強制されて手伝いをしても、親に気を遣わせるだけなのだ。
「あの、僕でよかったらやりますけれど」
今にも大爆発しそうな美波を見かねたのか、坂巻が間に入った。
「えー、ほんとですか? ありがとうございます。じゃあ配膳する部屋と手順を教えるのでお願いしますね」
美波はころっと態度を変え、微塵も遠慮せず、しっかりと坂巻の手を取った。
当然客人である坂巻に手伝わせるわけにはいかず、そうなると半強制的に優月は手伝いを強いられることになる。無視すれば本気で坂巻をこき使うのは目に見えているだけに性質が悪い。
「まきちゃんはお客さんなんだから、気軽に触るなよ」
優月が美波の腕を払う。自分の思い通りの風向きになりそうなことを喜んでいるようで、唇の端が微妙に上がっている。
「ねえゆず、手伝ってくれるの?」
「ごめんね、ふたりで先に風呂入っちゃっていいよ。俺、家の風呂もつかえるから」優月は美波に背を向けた。
「無視かよ」
優月の側頭部に尖った声が突き刺さった。それから両腕をがっしりと掴み、
「ごめんなさいねー。それじゃちょっと優月借りますね」と、美波は優月を部屋の外に引きずり出した。
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