1. 出発の朝

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 なにやら清々しい朝だった。  足の裏にコンクリートの感触を感じながら、両足のスニーカーが地面を踏みしめていた。  寝不足で思考回路が若干鈍いのはいつものことだが、それでも頭が冴えているのは冬の気温のせいだろうか。  それもあるだろうが、一番の理由はお年玉を持っているという特別感と言っていい。   あけましておめでとうございます、現在の時刻は1月1日の午前10時32分。わたくし木村優里はお年玉を手に入れることができました。  初夢よりも初笑いよりも先に感じた元日の朝の感想は、大学生になってもお年玉ってもらえるんだーということだった。  我が家は親戚の家から遠く離れているため、祖父や祖母をはじめ親戚一同が集まる機会は少ない。というよりも他の親戚はみな集まっているのに、ウチだけはお正月に集まらず夏休みに里帰りをするもんだから、お年玉をもらえるチャンスに恵まれていないのだ。  両親は終始一貫してお年玉反対派であったため、お正月にお年玉というものをもらった記憶がない。  私にとってお年玉という存在は都市伝説に近いものがあり、友達が正月明けに学校でお年玉をいくらもらったという話しを聞きながら、どこか遠い国の出来事のようにとらえていた。  そんな私がお年玉をもらってしまったものだから、なんだかキツネにつままれたような、ツチノコを踏んでしまったような、うれしさというよりも戸惑いの方が大きかった。  そして同時にお年玉っていつまでもらえるものなんだろうとも思った。  基準とかあるのだろうか。年齢とか、見た目とか、経験人数とか?
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