1. 出発の朝

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 かつてもらう側だった人たちは、どのタイミングでお年玉をもらえなくなり、いつごろあげる側になったのだろうか。  それは子どもから大人になる境目のような気がして、今まさに自分がそこに立っているような、いつか人生を振り返ってグーグルアースみたいに今まで歩いてきた道を俯瞰で見たときに「ああ、あれがそうだったんだ」と思う瞬間であるような気がして、思わず立ち止まってしまった。  立ち止まりついでに周りを見渡す。元日の住宅街には人通りは少なくいつにも増して閑散としていた。  いつもなら大通りから聞こえてくる車の音もこの日ばかりは少ないような気がして、私は鼻歌を歌いながら再び歩き出した。空へと延びていく鼻歌はいつもより上手く聞こえて新年から縁起が良い。  足は動かしているが両手は暇だった。年中無休の冷え性に1月の冷気はこたえる。両手を上着のポケットに突っ込むと、右手が財布に触れた。  お年玉が入っている財布は高校時代から使っているため、旧友のような安心感があるが、今日ばかりはなんだか重いような分厚いような、微妙な違和感がある気がした。  長いこと使っていた財布がここへきて一皮むけて成長してくれたのだ。と財布が脱皮を繰り返していると様子を想像し、それからしばらく頭から離れなかった。  いつもこんな妄想ばかりしているわけではない。歩きながら妄想がはかどるのはきっと寝不足のせいだ。きっと。
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