1. 出発の朝

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 しばらく歩くと右手に大勢の人だかりが見えた。  たくさん屋台が連なり、その先には木の生い茂った森が続いている。石段を上ったその先には紅白の幕と大きな鳥居が見えた。  駒鳥神社には今年も多くの初詣客でごった返していた。  どんな神様が祀られているのかは知らないが、樹齢1000年を超えるご神木がそびえ立っている駒鳥神社は近所ではちょっとしたパワースポットだ。  あてもなく歩いているわけではないが、時間に縛られているわけでもない。  人混みは得意ではなくても神社の敷地内に充満した初詣の空気はそんな人混みすらもわくわくした気分に変えてくれる。夏祭りも好きだが新年の独特な雰囲気も私は好きだった。  「りんご飴は最後まで」入口から神社の方へと連なる屋台を眺めていると、ふとそんな言葉を思い出した。  お祭りなど屋台に行ったときの私は幼いころからりんご飴、りんご飴、りんご飴だった。屋台の前を通るたび、何かに憑りつかれたようにりんご飴をせがむ私を見かねて母はりんご飴を買い与えてくれた。しかしいつも途中で飽きてしまいりんご飴を手放すことになる私に、あるとき母は厳命したのだった。  「りんご飴は最後まで」  その言葉のおかげで私はお祭りに行っても最初から最後までりんご飴を食べているだけの人間になってしまった。  貧乏だったわけではないが、ほかのものには食指が走らなかった。というよりも眺めているだけで満足だったのだ。  立ち並ぶ屋台や行き交う人を眺めながら食べるりんご飴が私にとってのお祭りの味だった。  会えなくなって4年。母が生きていたのはもう4年もまえのことなのだ。いや、まだ4年か。  4年という月日が長いのか短いのかわからないくらいの年頃になりましたよ、お母さん。
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