天使のはしご

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鈍い灰色の空を見上げる。空を見てセンチメンタルに浸れるほど子どもじゃないけど、そうせずにはいられなかった。 年の瀬も迫る師走、立て続けに嫌なことが起こった。両親の熟年離婚、上司のミスを押し付けられ連日の残業。そして極めつけにはクリスマスを前に、三年付き合った彼の浮気が発覚した。 一度も染めたことがない、おばあちゃん譲りの自慢の黒髪を、綺麗だと言って優しく撫でてくれた彼。 他人ごとだったら、三年目の浮気なんて古い歌じゃあるまいしと笑えるが、我が身にふりかかるとまったく笑えない。 怒りと悲しみとむなしさと、もういろいろなものがごちゃ混ぜになって、しばらく塞ぎこんでいたくなった。 しかし現実は厳しくて、とても塞ぎこむ暇などなく、仕事に追われて息つく暇すらなかった。一段落した今にして思えば、深く落ち込む暇がなくてよかったのかもしれない。 そうなっていたらもう、立ち直れなかったような気がしてならない。 こうして、とりあえずの問題を乗り越えて獲得した休日。彼との思い出が多く残る部屋にいるのは耐え難くて、私は近所にある公園のベンチに腰掛け、空を見上げていた。なんとなく、近くを見ていたくなかった。 寒々とした景色が広がる冬の公園に人気はなく、時たま犬の散歩やランニングをする人が通りかかるくらいだった。 仕事に、恋に疲れた30を手前にした女が空を見上げるのに、これほど適した場所はないだろう。 まったく人気がないわけではないが、さして関心は向けられない。ひとりになりたくないけど人混みにはいたくない、今の私にはぴったりの場所と言えるだろう。 ただ無心に、遠くにある空を見つめる。触れられないから、安心して見つめていられた。 灰色の空を、名前も知らない二羽の鳥が寄り添うように飛んでいる。きっとつがいなのだろう。 付かず離れず、踊るようにして空に優美な曲線を描いていく。あの鳥たちは、そうすることで互いの想いを伝えあっているのだろうか。 なんにも縛られないそのうつくしい姿を見ていたら、涙が流れた。
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