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周囲の身勝手にさんざん振り回されたせいか。誰の手にも触れられず、望むままに高みを舞う鳥たちを心底から羨ましく思った。無垢な少女のように。
まだ少女だった私はこんな未来を想像していなかっただろう。
大人になれば誰もが華やかに着飾って、素敵な男性と恋に落ち、幸せな家庭を築ける。そんな夢物語をなんの疑いもなく信じていた。
しかし現実には残業続きで肌は荒れ自慢の黒髪も艶を失い、彼は若い女と浮気をし、両親はあっさりと離婚した。
信じていた、いや、信じていたかったものすべてに裏切られた気分だ。この先こころから信じられるものなんてもう、なにひとつ手に入れられないような気がする。
そう思うと、とめどもなく涙が流れた。
「泣いているの?」
ガラス玉のように澄んだ声に、顔を隠すようにして涙をぬぐった。前を見ると、妙に古くさい格好をした少女が立っていた。
一片の曇りもない夜のような艶をたたえた黒髪に、きりっとした意思の強そうな目鼻立ち。どこかで見た覚えがあるような気がしたけど、思い出せない。
まじまじと見つめてしまったからだろうか、不思議そうに首を傾げる少女に慌てて声をかけた。
「大丈夫、もう泣き止んだから。こう見えてもお姉さんは強いんだよ」
無理やり笑顔を作ったが、まっすぐな瞳に見据えられて取り繕うのをやめた。なぜだかこの少女に、偽りは通じないように思えた。
「ううん、本当は強くなんかない。昔から変わらない、泣き虫のまんまだ。泣いて、落ち込んで、それでも強がりでなんとか立っているだけ」
しまった、子ども相手になにを言っているんだろう。大の大人が情けない。
「なんてね、パパやママは」
どこにいるの、と続けようとしたが少女の声に遮られた。
「泣いていいんだよ」
「えっ?」
「自分のために泣けるのは、あなたのこころがそこにあるから。痛がって、苦しんで、それでも生きようとしているあなたのこころが、そこにあるから」
少女がすべてを包み込むような、優しい微笑みを浮かべる。
「そんなあなたのこころをわかって、あなたのために泣いてあげられるのは、あなただけ。だから、泣いていいんだよ」
ひだまりのようなあたたかさのこもったその言葉に、抑え込んだ涙が溢れだした。
少女に見られているとわかっていても、止められなかった。まるで泣き虫とからかわれていた、幼い頃に戻ったかのように。
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