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その一瞬だけ、まるで捨てられた子犬のような風情になるのを、陽平は見逃さなかった。そして、そういう人間を構いたくなる自分の性格を知っている。
これまで付き合ってきた女性も、彼と似たタイプだった。一人で突っ張っているくせに、どこか寂しげで、不器用な女性にとって、陽平は「甘えさせ上手で、面倒見の良い男」でいた。
しかし、最初のうちは上手くいっても、あれこれ世話を焼きすぎてしまい、「気持ちが重い」や「過干渉過ぎる」、さらには「あなたに依存し過ぎて、自分がダメになりそう」と言われ、別れる羽目になる。そういう恋愛ばかり繰り返してきた。
思い切り甘やかして、思い切り構い倒したいだけなのに、どうも受け入れてもらえないのだ。そのたびに気をつけようと思っても、我慢できないことのほうが多かった。
同性である彼に対しても同じ気持ちになるということは、恋愛を抜きにしても、人の世話を焼きたがる性分なのだろう。
そういえば学生時代、男の後輩にはよく慕われていたな、とぼんやり思ったところで、彼が席を立った。いつものように一瞬見せた表情は元に戻り、無表情になっている。
伝票を受け取り、会計を済ませる。彼は足早に出て行った。今日の彼はまるで、逃げ出すかのようだった。
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