いつもの場所で、コーヒーを

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 採用するときに学業に差し障りはないのかと聞くと、「オレ、夜間部なんで、昼間はがっつり働いても平気なんスよ」とのん気そうに言った。ノリは軽いけれど、てきぱきと動いてくれるので助かっている。  父親がいたときは、自分と二人で切り盛りしていた。その父が亡くなり、店を引き継いだ当初、何もかも一人でこなしていた。けれど、限界があるとわかり、バイトを雇うことにしたしだいである。 「何でもねえよ。休憩行っていいぞ」 「了解ッス」  陽平は皿を片付けながら、稲葉が忘れていった本のことを考えていた。 名刺があるので、こちらから連絡するべきか。それとも、本人が来るのを待つべきか。ひょっとすると、忘れていったことに気づいていないのかもしれない。気づいていても、取りに来る暇がないのかもしれないし、取りに来るほど大事な本でもないのかもしれない。それにしても、何故急に来なくなったのだろう。  客の一人に過ぎないのに、考えれば考えるほどきりがなかった。  しばらくして、峰岸が戻ってきた。 「そういえば店長、レジの引き出しにある本て、お客さんの忘れ物ッスか?」 「ん? ああ」 「へえ、渋いッスねえ。高校のとき、オレも読みましたよ」  陽平は読んだことがなかった。そもそも、あまり本を読まない。 「もしかして、ミステリー小説か?」     
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