348人が本棚に入れています
本棚に追加
採用するときに学業に差し障りはないのかと聞くと、「オレ、夜間部なんで、昼間はがっつり働いても平気なんスよ」とのん気そうに言った。ノリは軽いけれど、てきぱきと動いてくれるので助かっている。
父親がいたときは、自分と二人で切り盛りしていた。その父が亡くなり、店を引き継いだ当初、何もかも一人でこなしていた。けれど、限界があるとわかり、バイトを雇うことにしたしだいである。
「何でもねえよ。休憩行っていいぞ」
「了解ッス」
陽平は皿を片付けながら、稲葉が忘れていった本のことを考えていた。
名刺があるので、こちらから連絡するべきか。それとも、本人が来るのを待つべきか。ひょっとすると、忘れていったことに気づいていないのかもしれない。気づいていても、取りに来る暇がないのかもしれないし、取りに来るほど大事な本でもないのかもしれない。それにしても、何故急に来なくなったのだろう。
客の一人に過ぎないのに、考えれば考えるほどきりがなかった。
しばらくして、峰岸が戻ってきた。
「そういえば店長、レジの引き出しにある本て、お客さんの忘れ物ッスか?」
「ん? ああ」
「へえ、渋いッスねえ。高校のとき、オレも読みましたよ」
陽平は読んだことがなかった。そもそも、あまり本を読まない。
「もしかして、ミステリー小説か?」
最初のコメントを投稿しよう!