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「ふふふ。さあ、食べてみなさい。そうすれば、君の中にいる『俊足』の子が表に出てくるから」
「しゅんそく?」
「足が速いってことだよ。ほら……君はまだまだ底知れぬ力を持っているんだ。この魔法の薬がぜぇんぶ叶えてくれる。君が望む力も、速さも、賢さも……全部」
「全部……僕が望むもの全部……」
「そう――全部。君はなりたい“自分”になれるんだ」
鋭い視線が少年の瞳の奥に潜む何かに突き刺さると同時に、彼の脳に、心にと、男性の声が呪文のごとく、繰り返し繰り返し、波紋のように広がり、浸透していった。
「さあ。お食べ」
男性の言葉に誘導されるがまま、少年は自分の掌にのった黄色の粒を口にした。
カリッポリッ
「ふふふ。さあ――走ってごらん。風のような速さを君は手にする資格を得たんだ――」
弾けるようにして走り出した少年の背中を、男性は嬉しそうに見送った。
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