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いきなり出された提案に瞬矢は、はたと顔を上げ茜を見下ろす。
雲間から太陽が顔を出し、光が差し込む。ゆっくりと部屋を明るく照らす日差しは、茜の両目に快活な光を宿した。
確かに今ここで四の五の考えたところで、それらは机上の空論でしかない。
「全く……、お前には敵わないな」
右手でくしゃくしゃと髪を掻き、参ったというふうに苦笑いを見せて言うと重い腰を上げる。
「そうこなくっちゃ!」
勢いよく立ち上がりそう言った茜は、にこりと満面の笑みを浮かべ小動物のようにくるりと一回転してみせた。
その度、内巻きに切り揃えられた髪が空中で軽快に揺れる。
彼女の言動に半ば翻弄されながらも、自分の中の日常という世界が少しずつ変わり始めていることに、瞬矢はまだ気づかない。
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