#.01 予兆

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#.01 予兆

 1  ――20XX年 3月31日。  都内某所。  人気のない公園へと続く路地を、スーツ姿の一見どこにでもいる中年の男が1人、(つまず)き前方へつんのめりながら走っていた。  男は酷く憔悴(しょうすい)した様子で地面に這いつくばり、後ずさりながら暗闇を見据える。  だが、それは決して暗闇を恐れているからではない。その向こう側にいるものを恐れているのだ。  やがて雲間から月が姿を覗かせ、辺りを仄かに照らす。  じりじりと張り詰めた空気に怯えるかの如く、男の背後で灯る外灯が点滅を繰り返す。  近づく足音に、男はスーツの内ポケットから震える手で携帯を取り出し画面を開く。暗闇に輝く液晶画面だけが、男の顔を明るく照らした。  その瞬間、暗闇からすぅっと右手が伸び、そこから生じた圧によって携帯は男の手中で粉砕された。そう、まるでポップコーンが弾けるように。 「やっと見つけた」  暗い路地の奥から聞こえるくすくすと含み笑いを孕んだ声は、どこか中性的で、月明かりが人物の姿をわずかに映し出す。  
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