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唯一記憶の片隅に残る、炎の中の情景が彼の脳裏を掠めた。
だがしかし、やはり自分の弟が事件に関わっているという事実は辛く、複雑なものでしかない。
茜は涙を指で拭い黙って聞いていた。
「まさか、あれが『共鳴』?」
先ほどの感覚を思い出し、見開かれた両目の奥で瞳孔がぎゅっと閉じる。
「あいつは、俺の知らない何かを知ってる。いったい何を……」
いったい、彼は何を知っていて、どうしてこのようなことをしたのだろうか。初めて受けた感覚に戸惑いながらも思考を巡らせていると、
「もういい! もう行こう!」
割って入るかのように、茜は半ば強引に瞬矢の腕を引きその場から離れようとした。その後ろ姿と勢いに瞬矢は、手を振りほどくことすら忘れてしまう。
公園の並木道を抜けたところで、黒いパンツスーツを着た20代の女が行く手を遮る。
「斎藤 瞬矢ね?」
きりりとした目つきの彼女は、黒いロングヘアをわずかに靡かせ、低音だがどこか深みのある声で言った。
いきなり現れたその女に瞬矢も茜も立ち止まり半歩身を引く。
「少し、話いいかしら?」
新田 香緒里という女は、警察手帳をちらつかせ、再びポケットに仕舞う。その際、伏せていた視線を瞬矢に向けた。
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