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六野は、香緒里の問いにしばし押し黙っていたが、やがて重たい口を開く。
「警察は、信用できねぇ……。10年前の件もそうだった」
そう言って六野は苦々しい顔を見せる。
「10年前の……?」
10年前といえば、丁度香緒里の父親が亡くなった年である。
香緒里は、10年前まで自分と同じく刑事であった父親が、当時ある事実を追っていたことを思い出す。
その事実とやらがなんだったのかまでは知れないが、この偶然の一致は、何か関係があるのだろうか。
傾く太陽が香緒里の黒髪を照らし、鮮やかなナチュラルブラウンに染め上げる。
「世の中にはな、知っていい真実と知っちゃならない真実ってのがある」
「悪いことは言わねぇ。この件から手を引きな」そう言って六野は背を向ける。
結局、六野はそれ以上のことを話そうとしなかった。だが香緒里は、あることを確信する。やはり自分の推測は正しかったと。
そして、全ては10年前で繋がっている――と。
軽く礼をし、香緒里はその場を後にする。
「【S】……。あの選択は、やはり間違いだったのか……」
自問する六野の声も、香緒里の耳に届くことはなかった。
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