#.03 目撃者

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   六野は、香緒里の問いにしばし押し黙っていたが、やがて重たい口を開く。 「警察は、信用できねぇ……。10年前の件もそうだった」  そう言って六野は苦々しい顔を見せる。 「10年前の……?」  10年前といえば、丁度香緒里の父親が亡くなった年である。  香緒里は、10年前まで自分と同じく刑事であった父親が、当時ある事実を追っていたことを思い出す。  その事実とやらがなんだったのかまでは知れないが、この偶然の一致は、何か関係があるのだろうか。  傾く太陽が香緒里の黒髪を照らし、鮮やかなナチュラルブラウンに染め上げる。 「世の中にはな、知っていい真実と知っちゃならない真実ってのがある」  「悪いことは言わねぇ。この件から手を引きな」そう言って六野は背を向ける。  結局、六野はそれ以上のことを話そうとしなかった。だが香緒里は、あることを確信する。やはり自分の推測は正しかったと。  そして、全ては10年前で繋がっている――と。  軽く礼をし、香緒里はその場を後にする。 「【S】……。あの選択は、やはり間違いだったのか……」  自問する六野の声も、香緒里の耳に届くことはなかった。       **
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