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静かに、だがはっきりとそう言い切ったのだ。香緒里には、何故そこまで冷静でいられるのか理解し難く、思わず口調を強める。
「犯行直後、現場近くの防犯カメラであなたの姿が確認されてるんです。あなたは【S】が何か知ってるんじゃ?」
「あなたが【S】なのでは?」喉元まで出かけたその言葉をぐっと堪え、香緒里は詰め寄る。
「さあな」
目の前の瞬矢の飄々とした態度に香緒里は毒気を抜かれ、冷静さを取り戻す。
瞬矢は備え付けの灰皿に煙草の灰を落とし、わずかな微笑と共に「でも……」と言葉を続ける。
「きっとまだ続く」
「……そうね。でも、必ず止めてみせる」
それに応えるように、香緒里も口角をつり上げ一言そう返す。2人の間に、緊張感にも似たえもいわれぬ空気が漂う。
状況証拠は全て彼を示している。だが明らかに足りないものがあった。
それは中川との接点、そして動機だ。
そのふたつを固める為、香緒里は一旦退くことを決める。
(斎藤 瞬矢、あなたは私が必ず……)
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