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短髪白髪混じりの60代くらいの男と鉢合わせる。
「ひっ……!」
目の前の男は、何を恐れてか兢兢とした声を上げ、足をもつれさせながら後退し、やがて地面にへたり込む。
瞬矢が1歩踏み出すと、男は護身するように左手を顔の前で翳し、でたらめに振り払う。
「やめろォ! 来るなぁ!」
「――!?」
男の喚きたてる声で、周囲の視線が一気に集まる。瞬矢も隣にいた茜も思わずびくりと身を震わせ、その叫喚に驚きを露にした。
男は地面に尻もちをついたまま瞬矢の顔を見上げ、酷く怯えた様子で後ずさる。そしてしきりに「許してくれ、許してくれ」と繰り返す。
「ちょ……、ちょっと待った! おっさん誰だ?」
全く状況が掴めないといった表情の瞬矢の台詞に対し、まさかと言った様子で男は開口する。
「……! 覚えてないのか?」
その表情は恐怖から一転、安堵に近いものへと変わってゆく。だが何か深く考えたような表情は変わらず、のそりと立ち上がり、軽くズボンについた土を払うと俯き加減に男は言った。
「まぁ、あんなことがあったんだ。忘れちまった方がいいのかもしれないな」
(『あんなこと』……?)
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