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私は引き攣った笑いを浮かべるしかない。この話題は私には向いていないようだ。
「ていうか、真裕こそどうなの? 中学は男子に混じって野球部に入ってたわけだし、何か良いこと無いの?」
「な、何にも無いよ。私なんてきっと、女子として見られてなかったよ」
「いやいや、そんな立派なもの持っておいて、それは絶対無いわ」
「へっ?」
京子ちゃんは私の胸元に目をやる。何故だか羨ましそうな眼差しだった。
「ま、当の本人は野球にしか目が無いみたいだし、仕方ないか」
「うん。言うなれば今の私は、野球が恋人かな」
「あそ。そりゃ末永くお幸せに」
「えへへ。ありがとう」
私は思わずはにかむ。ただし京子ちゃんの方は憮然としている。
「……えっと、褒める意味で言ったんじゃないんだけどね」
「へ? 何か言った?」
「何も言ってない。電車ももうすぐ来ちゃうし、ちょっと急ごっか」
「そうだね」
私が頷くと、京子ちゃんは僅かに歩くスピードを速める。私もそれに合わせながら、駅の中に入った。
私が進学先に選んだのは、県立亀ヶ崎高校。県内で二つしかない女子野球部がある高校の一つで、私の家からはこちらの方が近かった。最寄りの駅から少し距離があるというのが難点だけれど、野球ができるのなら私はそんなこと気にしない。聞いたところによると女子野球部は一昨年から顧問が変わり、つい五日前まで行われていた全国大会ではベスト八まで進んだそうだ。
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