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「野球部に入りたいってことは、真裕はマネージャー希望なの?」
「違うよ。私たちが見に行くのは女子野球部。選手として野球をやるの」
「へえ。女子野球部なんてあるんだ。知らなかったよ」
祥ちゃんは口でほの形を作る。全国大会でベスト八に進んだといっても、まだまだ女子野球自体が盛んでないこともあり、どうやら部の存在もそこまで知られていないらしい。
「けどなんだか面白そうだね。私も付いていっていいかな?」
「全然構わないよ! 寧ろこっちからお願いしたいくらい」
「ほんとに? 嬉しいなあ」
祥ちゃんは腰に手を当て、白い歯を見せる。ところがそこに、京子ちゃんが横槍を入れる。
「祥、気を付けて。安易な気持ちで付いていったら、その気がなくてもあれよあれよという間に入部させられるよ」
「ちょっと京子ちゃん、そんなことないって言ってるでしょ」
私と京子ちゃんのやりとりを見て、祥ちゃんは柔らかに目を細める。
「あはは。でもそれならそれで良いかな。高校生になったことだし、何か新しいことを始めてみたいと思ってたんだ」
「そうなの? よし、そうと決まれば早く見に行こう!」
私は祥ちゃんの腕を取り、意気昂然と駆け出す。
「わっ! いきなりは危ないって!」
私の走り出す勢いに押され、体が前のめりになる祥ちゃん。咄嗟に右足を前に出して踏ん張り、体勢を立て直す。
「ごめんごめん。張りきり過ぎちゃった」
「もう、気を付けなよ」
祥ちゃんに怒った様子はなく、口元も軽く緩んでいる。
「気を取り直して行こうか」
「うん。京子ちゃんも早く来なよ」
私は手を振って京子ちゃんを呼ぶ。
「はあ……。しょうがないなあ」
京子ちゃんは額に手を当てる。だが少ししてから、私たちの後を追って歩き出した。
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