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――新たな芽吹きの季節。私は弾む心臓の音と共に、目を覚ます。アラームにセットした時間より少し早いが、私はベッドから起き上がり、スマホのメッセージを確認する。
「明日は八時に迎えに行くね……って、京子ちゃんってば、夜中の三時に送ってきてるよ。流石に寝てるから」
メッセージを読んだ私は小さく苦笑いを浮かべ、返信する。
「真裕、そろそろ起きなくていいの? 遅刻しちゃうんじゃない?」
「大丈夫、もう起きてる」
下の階からお母さんの声が聞こえてくる。それに反応し、私は壁にかけられた制服の前に立った。
私の名前は柳瀬真裕。今日から高校生になる。
「いよいよ始まるんだね」
期待に胸を膨らませつつ、私は制服に手を掛ける。別に制服で学校を選んだわけではないけれど、初めて袖を通す高校の制服は非常に魅力的で、ときめきが止まらないものだ。普段の着替えに比べて少々手間取りながらも、私は制服を着終え、お母さんたちのいる一階へと降りる。
「おはよう」
「おはよう」
「お兄ちゃんは?」
「まだ寝てる。新学期の授業は来週からなんだとさ」
お母さんは仕事に向かうための化粧をしていた。私の家は両親共働きで、二人揃って家を出る時間は早い。
「ごめんね、今日の入学式行けなくて」
「いいよそんなの。私ももう高校生なんだし。お兄ちゃんは文句言ってたけどね。何で俺の時は付いてきたのに、私の時は付いていかないんだ、俺だけ恥ずかしい思いをしたじゃないかってね」
「え、そんなこと言ってたの? ひどいなあ。いいじゃんそれくらい。親はいくつになったって、子どもの晴れ舞台は見たいもんなんだから」
お母さんは口を尖らせる。ちょっと子どもっぽい人だけれど、そういうところが私は好きだ。
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