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台所には、ラップの被せられた鮭の塩焼きと、鍋に入った味噌汁が用意されている。私は食器棚から取り出した茶碗にご飯をよそうと、おかずと共に食卓へ運び、お母さんの向かい側に座った。
「いただきます」
別段変わった朝食のメニューでもないのに、今日は全く違った味わいがする。まるで駅前のサーティーンアイスクリームのポッピンサニー味を食べた時のような、爽やかな快感が身体に流れていく。それほどまでに、今の私の心は踊っていた。
「真裕、お母さんももう行くから。もしも真裕が家を出る時間になってもお兄ちゃんが起きてこなかったら、念のため戸締りをしておいて」
「分かった。行ってらっしゃい」
「行ってきます。真裕も気を付けてね」
お母さんが出ていった後、朝食を食べ終えた私は残りの支度をすませる。ショートヘアの前髪を、猫のついたお気に入りのピンでばっちり留め、京子ちゃんが迎えに来るのを待つ。家の時計が八時五分前を示したところで、家のベルが鳴った。
「あ、京子ちゃんかな」
私はインターフォンを取る。
《えへへ、私京子ちゃん。今あなたの家の前にいるの》
「あーそういうのいいから。今行くね」
《え、ちょっと……》
京子ちゃんによるメリーの電話のネタを軽くあしらい、私は外に出る。
高校生活の、第一歩を踏んだ――。
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