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受け取った書類は、それでも半分は終わっている。相変わらず不明金があるが、これも合わせなければ。書類と領収書と元々組まれていた予定経費を一度他の書類に起こし、処理の終わった物については白紙に貼り付けていく。
終わると不明金の捜索。これは日々の日誌などを漁れば見つけられる。日付と何に使ったかを日誌から抜粋して書き込んでいく。これが終わってようやく決算書だ。
「相変わらず早いな」
「得意ですよ、俺。ファウスト様とどっちが早いか競ってみますか?」
「負けの見えている勝負はしない」
「賢明ですね」
笑って顔を上げると、ファウストも手を動かしながら笑っていた。その後の視線は紙の上へ。真剣な黒い瞳が流れて行くのを、思わずジッと見てしまう。
あまり、こういう顔は見ないのだ。真剣で静かで、優等生のような顔。動く手はとても滑らかだ。こう見ると、この人も十分優秀なのだと思う。
それを上回る仕事の量が問題なのだろう。
「どうした?」
「あぁ、いいえ」
見とれていたなんて流石に言えなくて、ランバートも手元に集中し始めた。
結局仕事が終わったのは、十時を過ぎた頃だった。決算書類を作り上げ、日々の日誌のファイリングを手伝い、完結している報告書の表を書いてファイリングした。
うんと伸びをするとその肩をポンと叩かれる。肩越しに見上げると、ファウストが申し訳なさそうに笑っている。
「助かった、有り難う」
「いえ」
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