私が生まれた日に……

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【登場人物】 乃木すみれ(32) 報道カメラマン 乃木 大介(35) すみれの父、元戦場カメラマン 【プロット】  目覚めるとそこは屋外階段の踊り場だった。 スクープを撮ろうとして寝てしまったようだ。 乃木すみれは、業界屈指の報道カメラマンである。  ところが、エレベーター将棋倒し事故の写真が運命を狂わせた。幼い少女の命が奪われた写真を見た人々が、撮影より救助すべきだろうと抗議してきたのである。  人命か報道か―― ジャーナリズムの定義に悩んだ挙句、すみれは長い休暇をとることにした。 折しも父・乃木大介の33回忌法要が迫っており、母から帰省を促されたいたすみれは故郷福井へ帰る事に。 本当は帰りたくなかった。自分の出産予定日に喧嘩して死んだ父のせいで、誕生日を命日にされた事をすみれは恨んでいたから。しかも父は子供が嫌いで、母親に中絶させようとした上、すみれという名前も父が通う店のホステスの名前と同じと聞き、どれだけ父親を憎んできたか。だから帰省は法要の為ではない。実は雄島に行きたかったからである。  雄島は神の島と呼ばれ、時計と逆回りに一周すると死者に会えると言う伝説がある。もし会えるのなら、亡くなった少女に会って詫びたいと思ったのである。  ところが、何とすみれは32年前の自分が生まれた日にワープしてしまったのだ。 母はその時産院で、父だけが家にいた。未来から来た娘と名乗るのも失笑。そこですみれは母の友人で挨拶に来たと嘯き、父の本音を聞き出した。子供を嫌った理由や、すみれという名前の由来など。  そして判った驚くべき真実。 父は子供が嫌いなのではなかった。過酷な戦場でカメラマンをしていた時に、笑顔で和ませてくれた幼い少女を目の前で殺された、子供を見るのが怖かっただけだったのだ。すみれの名前もホステスとは無関係で、その少女のような笑顔の娘になって欲しいと願いを込め、SMILEをローマ字読みした「すみれ」だった。  すみれは感極まり、そんな父を救おうとした。 しかし運命は変えられず、父は喧嘩の仲裁に入り、殺されてしまったのだ。 ショックですみれは意識を失った。  そして気づくと元の雄島にいた。  今のは夢? いや夢なんかじゃない。 父が本当は自分の誕生を望んでいたと知ったすみれは、もう逃げるのは辞めようと決意した。その時、頑張れと青い空から父の声が聞こえたような気がした。
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