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まるで、二人っきりにしてあげようと遠慮してるみたいに、誰も廊下にいなくて、静かで、二人分のスリッパが立てるパタパタと呑気な音がよく響いていた。
どっちも無言で、どっちからともなく手を繋いで。何かしゃべったら声がひっくり返りそうなくらい、どっちも胸のところに期待をぎゅうぎゅうに詰め込んでるのが、なんかわかった。
無言だけど、うるさいくらいに心臓が騒いでた。
「日向」
今も、心臓がすごいよ。
「?」
布団の上に寝転がって俺を見上げる君の浴衣姿に、どうにかなっちゃいそう。
「どうですか? 俺の浴衣姿は」
少しズレた肩のとこから覗く華奢な肩すら、見たらいけない気がする。
「ご感想は?」
キスして、舐めて、湯上りのしっとりした肌に、齧りつきたいなんて思ってるって、バレてしまいそうで、真っ直ぐこっちを見上げる瞳が眩しい。
「あ……あの、伊都、浴衣、ダメだよ」
「……え?」
「カッコよすぎて、なんか、もう……ダメ」
「さっき、日向が見たいって言ったのに?」
「うん。ごめん、すごい、だって、想像してたよりカッコいい」
言いながら、日向のことを潰してしまわないようにってついた手に掴まって、ぎゅっと背中を丸めて顔を隠してしまう。
「ごめん、ワガママ、だね。着て欲しいって、言ったくせに」
そのくせ、ワガママを言ったことに不安を感じて、その手の隙間からこっちをチラッと伺うなんてことをする。
ダメなのは日向のほうだ。ダメ、なんてさ。そんなのこっちのセリフだ。
「ワガママ嬉しいんだってば」
「ひゃっ! ぁっ、ン」
頬擦りして甘えるみたいに俺の手に擦り寄ったりする、そっちのほうがよっぽど、だから、曝け出されたうなじに、首筋に、やんわりと唇で触れて離れる。痕が残らないように気をつけて、まだキスしたい衝動を必死に抑えながら。
「ン、伊都、そ、そしたら、もういっこ、言っても、いい?」
「うん」
「あと、これも欲しい」
「?」
まだ隠れるように丸まったまま、ちらりとこっちを覗き込んで、何か言いたそうに唇を開いた。
「キスマーク、つけて」
「……」
「欲しい」
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