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さっき、行列に並んでいた俺らとは逆の方向へ、つまり出口のほうへ歩いていたから、もう初詣が終わって帰るんだと思ってた。でも、今、また境内にいる。あれ、たぶんだけど、あそこおみくじの結び所だし、おみくじを括ろうとしてるんだろ。
あっちの低い場所になら、白崎の身長でも手が届くのに、なんでか、誰のおみくじもくっついていない、あの結び所の縄の高い場所がいいらしくて、足を精一杯爪先立ちでフラつきながらも頑張って手を伸ばしていた。
向こうにしてみたら、俺は新しい学校の大勢いる同級生のひとり。声をかけたって、俺の顔を見たところで誰だかわからないかもしれない。
「それ、括りつけるの、手伝おうか?」
けど、声をかけた。だって、白崎が諦めずにどうしてもそこに手を伸ばすから、フラフラしてるし、こんなに寒い中で手袋もせずに、ずっと。吐く息が真っ白だから、なんかさ。
「ぇ?」
だよな。びっくりするよな、いきなり声かけられたりとかして。でも、こんな真冬の深夜に手袋なしじゃさ。ほら、近くに行くと、指先がかじかんでいるのかピンク色になっている。
「ぁ……ぇ」
白崎にしてみたら、知らない人同然。変な奴って思われそう。
「佐伯……」
「えっ?」
「ぁ! ごめっ、くんっ! 佐伯君……」
びっくりしたのは、俺のほうだった。まさか向こうが俺の名前を知ってるとは思わなくて、びっくりして、そしたら今度は白崎が真っ赤になった。
「いや、クンつけろよ、とかじゃなくて。よく隣のクラスの奴まで名前知ってるなって思っただけ」
記憶力いいんだなって言ったら、無言で笑った。そして、薄く開いた唇から、ふわりとまた白い吐息。
「それ、枝にくくりつけるんだろ?」
「……ぇ、あ、うん」
「ほら」
なんか、イメージしていた感じと違ってた。白いダッフルコートに白い肌、美人、って、そう言われても男の白崎は嬉しくないだろうけど、でも、綺麗な顔はどこか冷たい印象すら与える。だからもっと大人っぽいっつうか、しっかりしてるんだと。
「俺なら背届くから」
そう思ったのに、頬を真っ赤にした白崎はなんか子どもっぽくて。ちゃんと同じ歳の奴だった。
「あ、りがと」
「どういたしまして」
俺がおみくじを結ぶところをじっと見つめている。
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