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年が変わる。ただそれだけ。
西暦がひとつ増えて、十二月っていう数字がまた一に戻って。でも、今日までの青い空が明日からピンク色になるわけじゃない。明日も明後日も、空は青くて、年越しカウントダウンでゼロって叫んだ瞬間、世界の何かが変わるわけじゃない。
けれど、不思議と世界はちょっとだけ浮かれて、俺は、そんな空気にちょっとだけやっぱり浮ついて、次の一年にちょっとだけ、ドキドキする。
「お父さん」
でも、きっと来年の今日も似たようなことを思うんだろう。いつか大人になった俺はどんなふうにお正月を迎えて、誰へ「明けましておめでとう」って呟くんだろう。
「俺、出掛けて来る」
リビングに顔を出すと、お父さんと、それと睦月が同時に顔を上げた。
お父さんはニコッと笑って首を傾げると、少し伸びた前髪が穏かに笑う目元をくすぐった。今年で、いくつになるんだっけ。お父さんが二十三の時に俺が生まれたから……そっか、もう四十超えてるじゃん。
「寒いから気をつけてね」
「うん」
「カウントダウン?」
「うん。玲緒と」
そうは見えない。いや若作りとかじゃないんだけど、毎日見てるからかな、歳とかよくわからない。実感ないっつうか。ただ、四十の男って、もっとこう渋いっていうかさ。おじさんっていうか。そしてお父さんはいつまでも見た目が変わらない気がする。
「送ろうか?」
そう訊いてくれたのはお父さんと一緒に年越しテレビを蜜柑が食べながら眺めてる睦月だ。女の人にもありそうな名前。けど、女の人じゃなくて、俺のお母さんでもなくて、この人は――。
「んーん、大丈夫。玲緒のお母さんが送ってくれるって」
俺の、ヒーローだ。
「そっか」
小学一年の時、突然現れた、俺のヒーロー。カッコよくて強くて、昔も、今も、変わらず、俺の憧れで、理想の人。
「ついに伊都が初詣デートかと思ったのになぁ」
そして、睦月は俺のお父さんのことを好きになった。くっつけたのは俺、って、今でもちょっとだけ自慢に思っていたりする。
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