5356人が本棚に入れています
本棚に追加
このカツラ、そっか、あの時、トモさんが雑貨屋で被って見せてくれたやつだ。その時は髪型が同じだから、色が黒に変わっただけじゃんって思っただけだったけど。この夜道じゃ、髪色が黒だろうが茶色だろうがあまり見分けはつかないね。
そのカツラをそっと取ると、前髪がちょっと短い、俺の大好きな子が目の前に現れた。
「い、と」
「知ってる? 俺が好きになった子は、今まででその子だけなんだ」
茶色の瞳に涙をいっぱい溜めてる。その涙が悲しくてとか辛くて溢れたものじゃないと確かめるために覗き込んだ。
「その子のこと、すごく大事にしてる」
「っ」
「ずっと、大事にしたいって思ってる」
「伊都っ」
「できることなら、ずっと、ずーっと、俺だけが大事にしたいって、そう、思ってる」
去年の夏、君はまだひとりぼっちだった。今年の夏の君はひとりぼっちになんて、させない。来年の夏は……一緒に、暮せたらいいなぁなんて。
「伊都、俺、ごめっ」
「謝らないでね」
額をこつんって当てて、目を閉じた。
「気にしないで。俺、何百回だって言うから」
「……伊都」
「他所見なんてしない。好きなのは、日向だけだって」
君が観念して、俺の隣を普通に居場所だと思ってくれるまで。
「むしろ、言いたいし。日向のことを好きって、いくらでも言いたい」
「……」
気持ちを込めてキスをした。唇に触れて、離れて、俺を見上げる君にまた笑って、もう一度唇に触れる。
「好きだよ」
その瞳は夜道だからかな。いつもよりも深い色をしてて、すごく艶めいてて、もうたくさんキスをしてきたのに、またドキドキしてしまったんだ。
最初のコメントを投稿しよう!