旅行編 9 チクチク

4/4
前へ
/443ページ
次へ
 白いワンピースはけっこう目立つけど、脱がなくて大丈夫? って訊いたんだ。中にハーフパンツだけど履いてる、タンクトップも着てるって言ってたから。でも、なぜかそのままでいいと、旅館の部屋までそれを着ていた。もう夜で、呼べば誰かしら出て来てくれるだろうけれど、そっと静かに通ってしまえば、フロントには誰もいなかったからよかったけど。  玲緒なら、面白がってずっと着てる。けど、日向なら恥ずかしいとすぐにでも脱ぎそうなのに。 「あ、あの、伊都」 「うん」  部屋に入って、改めて、その姿を見ると違和感があんまりなくて、やっぱり心配になる。もう少しくらい違和感あってくれないと、本当、困るから。 「これ、脱いじゃっていいの?」  言いながら、きゅっと、その白いワンピースの裾を握り締めてる。 「え? なんで?」 「俺なんかじゃ、あれかもだけどっ、でもっ、伊都、よく言うじゃん。可愛いって……その、俺のこと……お、俺はちっとも思わないけどさ」  声が大きくなったり、小さくなったり、と思ったらまた大きくなって。白いワンピースを着た自分をもてあますように手で、その布をぎゅっと握ってる。 「その、だから」 「もしかして、可愛いって、俺がゲイじゃなくて、恋愛対象が女の子だから、日向にもそれを願ってる、とか、思ってる?」 「……」  真っ赤になって俯いてしまった。そして、戸惑って、考えて、けど、何も言わず我慢するようなことはもうしないでいいと話したから、小さく頷いて答えてくれる。 「日向ってさ」 「……う、ん」 「たまぁ……に、馬鹿だよね」 「!」  溜め息を一つ吐いて、真っ白なそのワンピースを頭からズボッと引っこ抜いた。 「日向が可愛いんだよ」  そんな不安そうに覗き込まないで。切なげに見つめないで。 「可愛い子が好きなんじゃなくて」  じゃないと、理性とか溶けて消えちゃうってば。 「好きな日向が、ただ、フツーに、可愛いだけだよ」  でも、もう、我慢とか、理性とか、そういうの溶けて消えかかってるけどさ。
/443ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5355人が本棚に入れています
本棚に追加