5354人が本棚に入れています
本棚に追加
なんだっていいよ。もう絶対に、一言だって女の子と話すな、でもいい。君がそれで悲しい気持ちにならないのなら、俺はなんだって。
「そ、そしたら、浴衣姿の伊都が、見たい、です」
なんだって。
「……ぇ?」
「ダッ、ダメ? あの、見てみたくて! その! えっと、夏だし、旅館だし、ゆ、浴衣あるし。パジャマとかじゃないと落ち着かないなら、ちょっと着るだけでいいから、そのっ! 浴衣姿をっ……ダメ、ですか?」
真っ赤になって、照れて眉を八の字にして、俺の腕の中から、パッと顔を上げた。
もっと、違うことだと思った。昼間のこと、トモさんとのツーショットのこと、日向はずっとそれを気にして、怖いのも我慢してるんだと、そう思ってたのに。
「っぷ」
「! ご、ごめん! なんでもない! 忘れてっ、えっと、そ、そしたら」
「違うよ」
日向は綺麗な顔をしてる。細くて、色白で、儚げ。ほら、抱き締めたら、折れそうなくらいに華奢だ。
「い、伊都?」
けど、男子だよ。女の子じゃなくて、普通に男子で、それで、誰より可愛いから、本当に、困るんだ。
腕に抱き締めたまま、額をコツンと当てて、ひとつ深呼吸をした。そんな俺を上目遣いで心配そうに見上げてる。君のワガママならなんだって嬉しいよ。大袈裟かもしれないけれど、それがたとえ、世界を敵に回すようなことだとしても笑顔でやるけれど、まさか、こんな可愛いワガママなんて。
「お風呂、行こっか」
男子にとっての憧れだよね。好きな子の浴衣姿ってさ。
最初のコメントを投稿しよう!