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「み、見ちゃダメだからね!」
「うん。見てないよ」
見たら、きっと、俺自身ダメだから。後ろにいる日向がどうしても気になって、全神経がそっちばっかりに向かうけど、頑張って我慢してる。
「伊都、もう、身体洗った?」
「うん。洗ったよ。日向は?」
「も、もう終わる」
背中合わせでそっぽを向き合いながら頭洗って、身体洗って、話をしてる。もう夜もけっこう遅いからか大浴場には人がいなくて、俺たちだけの貸切状態。でも、バラバラに座ってて、ちょっと不思議な光景かもしれない。
「お湯、浸かる?」
「うん。ちょっとだけ」
「じゃ、俺も」
見ちゃ、ダメだから、先に全部洗い終わった俺は湯船に浸かって日向のほうへ背中を向けた。そして、日向が追いかけるように湯に入った音に、心臓がちょっとせわしなくなる。
「……」
のぼせそう。
不思議だよね。同じ男で、同じ裸なのに、他の誰と入ったってこんな気持ちになんて、一ミリだってならないのに。なんで、日向だけは特別に見えるんだろう。
なんで、君の素肌にだけは心臓が飛び跳ねるんだろう。
そっと振り返ると、日向がむこうを向いていた。白い肌が貝殻みたいなピンク色で、肩もうなじも、その色に染まってて、息を、しばらく、し忘れて、苦しくなってからようやくそっぽを向いた。
「あ、上がろっか。伊都、まだ、入ってる?」
「んーん、俺も出る」
湯から出たのを音で聞いてから、時間差で俺も出て、ヒタヒタと日向の歩いた跡がお湯で印されてる石の上を遊ぶ子どもみたいに辿って追いかけた。胸が高鳴ってるから、どうしてもはしゃいじゃうんだ。
あとちょっとしたら、あの肌に――そんな期待ばっか膨らんでいく。
この後のことに。お風呂で笑ってしまうくらいに背中合わせで、見ちゃダメと言った、俺を意識しまくってる君と。
「日向」
「……」
「もう、見てもいい? 日向のこと」
「あ、ちょっ! 待っ、」
君と、この後、部屋でするキスに。
「待っ……」
「気に入った? 俺の、浴衣姿」
「ぁ……」
俺の浴衣姿を見たいって、甘いワガママを言ってくれた君がこの後、したいと、思ってくれたことに。大はしゃぎしたくて、仕方ないんだ。
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