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「……ウワサだろ?」
真っ白なコートに真っ白な肌をしてて、ここじゃひどく寒そうに見える、隣の教室の、転校生。その転校生が肩を竦めながら、もう初詣が終わったのか通り過ぎていった。
「えーでも、なんかミステリアスだよね」
「……」
振り返ると、皆とは逆方向に、ひとりぼっちで、それこそ、実在していないような、真っ白な、架空の生き物のようだった。
「あああ! っていうか、もうカウントダウン始まっちゃう!」
「今年、混んでるな」
「もおお! 伊都は呑気だなぁ」
「いいじゃん。別に。カラオケまではまだ時間あるんだし。ほら、じゅう、きゅう」
ちょっと、って玲緒が隣で慌ててた。でも、カウントは進んでいく。
時間は待ってくれないし、ただ過ぎていくだけで、カウントダウンしたってしなくたって、年は変わるし、年が変わるだけの話だし。区切りなんて。
「行列の中でとかっ!」
「よーん、さーん」
に……いち。
「あー、もうとりあえず!」
「あはは。明けました。おめでとう」
ふと、振り返った。なんでかわからないけど、あの転校生はひとりでカウントダウンしたのかなって、思いながら振り返った。
「明けましておめでとう! 伊都っ、ライン、みんなにできるかな」
転校生は白い息を吐きながら、ちょっとだけ空を見上げていた。白くて、キラキラしているように見えるほど、真っ白で。
「どうだろ。……おめで、と、う、って送れ、そう?」
ひとりだった。
そして、新しい年が、始まっていた。
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