2人が本棚に入れています
本棚に追加
これだけ何も分からないと本当に家に招いてもよいのか考えてしまう。それに着替えとかもどうにかすると言ったが、本当にあてがあるのだろうか。見たところ財布を持っている様子もない。これ以上の負担をかけないように強がっているようにしか見えなかった。
「見たところ、お金とかもなさそうだけど具体的にどうするつもりなの?」
「……まだ考えていないです」
「じゃあ現状はお金の持ち合わせもないと」
少女は無言のまま俯く。身元を教えられない上に、お金のなども持ち合わせていない。正直なところ厄介ごとの予感しかしない。
やはり家には置けないと言って、出て言ってもらうことが手っ取り早い解決方法である。だけど、黙って俯いている少女にそんなことを言い出すことはとてもできなかった。きっとここから出て言ったら行くあてもなく、ずっと一人で待ち続けることになるだろう。
しばらく考えた末に、財布から一万円札を抜き取る。そして部屋の合鍵と一万円をそっと少女の前に差し出す。
「平日は仕事で朝からいないから、この部屋は自由に使っていいから。あと君が使用するようなものは何もなにから、明日このお金で色々買ってきな」
少女が驚いた顔をしてこちらを見つめる。
「あの、本当にここまでしてもらってもいいんですか。見ず知らずの私のためにここまで無理しなくてもいいですよ」
「正直な話、ここで出て行ってもらった方が楽ではあるね。でもここで会ったのも何かの縁だし、何も聞かずに好きなだけいていいよ」
少女が言うように本当にどうかしていると思う。一人でいることを好む僕がこれだけ無条件で人を迎え入れることなどありえない。だけど彼女のことはどうしても放っておくことができなかった。
「とりあえず冷えているだろうから先にお風呂に入ったら? 着替えはないから今日はそのまま同じ服を着てもらうしかないけど、シャワーくらい浴びた方がいいよ」
「すみません。何からなにまでありがとうございます」
説明を聞いた少女が、容姿に似つかわしいほど丁寧にお辞儀をする。
最初のコメントを投稿しよう!