番外編 -8-

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「とりあえず、今日は私がここに泊まるから、茉子と唯子は一旦家に帰って休んで。」 あれから、悠人の様子を見て、茉子さんが酵素ドリンクを飲ませ、ミネラルバランスが凄く良いのだというお塩を舐めさせてさらに、梅しょう番茶もいいのだと言って、家から持参してきてくれた物に、同じく持参してきてくれた番茶を入れて、それも飲ませてくれた。 さっきはお水で吐いてしまったけど、酵素ドリンクも梅しょう番茶も吐くことなくゆっくりと飲むことができてホッとした。 凛子さんはめまいに効くのだというツボを押したり、足を摩ったり。 唯ちゃんは、脱衣所の掃除を終えると、お粥を作って、悠人が下ごしらえしてくれてた夕飯も完成させて、吏華ちゃんご飯まだなんじゃない?と、盛り付けてダイニングテーブルに並べてくれた。 「…え、や、でも…」 さっきまでは不安と焦りで、ご飯のことなんてすっかり忘れてたけど、凛子さん達が来てくれて少し安心したからか、急にお腹が空いてきた。 「食べて食べて。私達は夕飯済ませてきたから。吏華ちゃんは日和子ちゃんにおっぱいもあげなきゃいけないんだから、しっかり食べるのよ。」 三姉妹が看病やら料理やら、色々としてくれているのに、私一人だけのほほんとご飯食べてもいいのかしらと思ったけど、ここで私まで倒れたらそれこそ元も子もないし…と思い直し、お言葉に甘えて頂いた。 3人の判断力やチームワークに、ただただ尊敬のまなざしを向けるばかりで、私って、今まで悠人に甘えすぎて、本当に何もできないんだな…と自己嫌悪に陥りそうになったけど、また何かあったときはすぐに私も対処できるようにしなきゃ!と自分に喝を入れて、メモをとったりツボの位置を教えてもらったりした。 そうしてようやく落ち着き、悠人の顔色も戻ってきて眠りについたのを見計らって、凛子さんが茉子さんと唯ちゃんに一旦家に帰るようにと告げた。 「凛子さんありがとうございます。茉子さんと唯ちゃんも…遅くまで本当にありがとうございました。すごく…心強くて助かりました。」 「もう、吏華ちゃんてば水くさいってば!家族が困ってるときは助け合うのが当り前でしょ。じゃあ、私たちは帰るわね。」 玄関で2人を見送り、リビングへ戻ると凛子さんが温かい番茶を淹れてくれた。 「これ飲んで少し休んだら私たちも寝ましょう。」 「ありがとうございます。」 ダイニングテーブルに向かい合って座り、凛子さんと2人お茶を飲む。 「吏華ちゃん、自分のせいだなんて、思っちゃだめよ?」 「え…」 「吏華ちゃんの事だから、責任感じちゃってるんじゃないかと思って」 そう言ってふっと目を細め、優しく微笑んだ凛子さんに図星をつかれ、じわじわとまた目の奥が熱くなる。 「でも…私、何から何まで悠人に…頼りっぱなしで、悠人の大丈夫って言葉に甘えて…夜だって日和子が起きるたびに悠人も一緒に起きてくれて、昼間は仕事と家事と日和子のお世話も…少し考えれば、悠人がどれだけ無理してるのか、気付けたはずだったのに…」 「吏華ちゃん、今回のことはね…悠がちょっと、張り切りすぎちゃっただけ。」 「は、張り切り…?」 「そ。まあ、私たちも悠は少しくらい無理したって大丈夫なんて言っちゃったしね。」 そう言ってふふっとイタズラが見つかった子供みたいに笑う凛子さんになんだか拍子抜けしてしまった。 「今回の事で、悠も無理しすぎたら結局こうやって吏華ちゃんに心配かけちゃって迷惑かけるって事も学んだだろうし、ここからまたやり方を変えていけばいいのよ。失敗したり間違ったりしないと分からないことだらけでしょ?人生なんて。それでいいのよ。過ぎてしまった事や起きてしまった事をいつまでも悔やんで、ああしてれば、こうしていればって言っててももう元には戻れないでしょ?だから、次同じことが起きないように、これからどうするか、考ればいいのよ。慌てなくてもいいから、少しずつ…悠の体調が回復したら2人で話すといいわ。」 「…そう、ですね。過ぎた事よりもこれからの事を…考えます。2人で。」 私がそう答えると、凛子さんは口角を上げて優しく微笑みながら頷いてくれた。 「さ、吏華ちゃんも疲れたでしょ。そろそろ寝ましょうか。さっきの様子だと、疲れとか寝不足から来る貧血とかめまいだとは思うけど、念のため悠は明日私が病院に連れて行くわね。」 「ありがとうございます。本当に…何から何まで…」 ふんぎゃぁ…ふんぎゃぁ…!と、寝室から日和子の泣き声が聞こえてきた。 「あら、日和ちゃんがお目覚めね。行ってあげて。悠のことは私に任せて。」 そう言って2人分のカップを持ち、ウインクした凛子さんに、もう一度お礼を言って、悠人の寝顔を確認し、寝室へ向かう。 本当は悠人の髪を撫でて、いつも悠人がしてくれるみたいに、その額や頬にキスしたいところだけど、凛子さんがいるから我慢した。 悠人が元気になったら、たくさんキスして抱きしめて、私と日和子の為にいつもありがとうって、ちゃんと伝えよう。
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