第1章

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6コイバナめ 「帰りたい」 変な汗をかきながら私は言った。 テーブル席で隣の椅子には男が座り、向かいには誰も座っていない。 その彼に言ったのだけど、彼は聞こえなかったフリをして渡されたパンフレットを眺めている。 すごくご機嫌で。 私がこんなに変な汗かいて背中がじっとりしてきているというのに。 「帰りたい」 もう1度言うと、私の方を見て満面の笑顔で 「はいはい頑張って」 おざなりな励ましを口にする。 このやろう そう思った言葉は心のなかで投げつけ、落ち着きなく視線をさまよわせる。 馴染まない。 馴染めない。 不似合い。 私には似つかわしくない。 無理だ。 そう思うのに、隣の彼は汗ばんだ私の手を離さないから逃げられない。 手に力を入れると握り返された。 それから、私の顔を覗き込んで宥めるように言った。 「ここまで来たんだからあきらめなよ」 「無理」 「否定はやっ」 「可愛いとかキレイとかじゃないから無理」 「えー可愛いよ」 「可愛くない」 「でも約束したよね?」 「だってずっとお願いって頼むから」 「うん。お願い聞いてくれてありがとう」 「でも」 「オレに見せてくれるんだよね?」 「でも」 「約束したよね?」 「…した」 不貞腐れて手を繋ぎ直す。 そうだ約束した。 したけど来てみたら怖じ気づいた。 「楽しみだなぁ」 「マジか」 「着てくれるんだよね?ウェディングドレス」 「約束したからね」 本当に恥ずかしくて死にそうだけど、彼のお願いだから頑張ってみることにしたのだ。 変な汗が止まらない。 「お待たせいたしました」 スーツの女性がやって来て向かいの席に座った。 キリッとしていてキレイな人だ。 「本日担当させていただきます。当式場へお越しいただきありがとうございます」 この人くらいキレイなら気後れしなかったかも。 いやでもこんな私を可愛いと言ってプロポーズしてくれた彼のために、恥ずかしくて死にそうだけど死にそうなくらい頑張ろう。 私はこの人が好きで結婚するんだから。 …ダイエットくらいはしようと思う。 end
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