186人が本棚に入れています
本棚に追加
私が誰かを支配したいのは、誰にも支配されたくないからだ。
自分を形成しているモノの中に、『弱さ』があることを許したくない。
気づけば何よりも目立つ塊になっているそれを、誰にも触れさせないよう何重にも連ねた扉の奥深くにしまい茨の棘で鍵をかけておく。
あとは何食わぬ顔で、群がる犬たちに餌をばらまいていれば良い。
愚かな犬は与えられる褒美に満足してしまい、隠された本当の私を嗅ぎ付ける鼻などとうに麻痺してるのだから。
けれど最近飼い始めたこの犬は、無遠慮に扉の奥を覗こうとしてくる。
わずかな隙間から顔をくぐらせて覆った棘を払いのけ、傷つき赤い血の滴る尻尾を振り回しながら私の姿を探す。
そして一番奥で膝を抱え震えている私を見つけ、冷えた身体をそっと舐めたがる。
こうすることが、まるで『愛』だと言うように。
けれど、私は見抜いている。
優しい顔つきをしたこの犬がいずれ牙をむき出し私の喉元をとらえ、次は自分が支配するつもりだということを。
そんな愚かな侵入者に対し、今日も振り下ろす鞭に力を籠める。
皮膚が裂けるまで茨が食い込むように。
もっともっと、激しく血を滴らす程の傷を与えるために。
ただの犬でしかないと、自分の立場を思い知らせるために。
容易くここまでたどり着けるよう、隙間を作って待っていたのは私の方だったなんて、認めたくない。
最初のコメントを投稿しよう!