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「ビール5本で足りる?遠慮しなくて良いからね」
どうやら酒乱扱いされてたのは私の方だったらしい。
「あ、でも大吟醸は勘弁して・・・」と小声で付け足され、彼の中であの日の記憶がどう確立されてるのか不安になる。
どっかの眼鏡が、余計なことだけ吹き込んでそう。
「えーと・・・コーヒーで良いです」
「ホント?我慢しなくても」
「手とか震えないんで大丈夫です。それに取材も兼ねてますし、アルコールはちょっと。梶浦さんこそどうぞ・・・」
遠慮なく飲んで下さい、私が立ち去った後に。
そう言外に込めながら、いつも飲んでいるコーヒーを取り出してカゴに入れさせてもらう。
すると梶浦さんも軽く首を振り、お茶が並ぶ扉の前に移動した。
「俺もお茶にする。酔っちゃったらちゃんと観れないからねえ」
確かに、覚醒モードの彼じゃM男動画は腹の足しにもならないだろうな。
ものすごく説得力のある言葉に心から頷きたかったけど、別に梶浦さんは自分の裏の顔を知ってて言ってるわけではない。
「記憶なくなっちゃうと観た気がしませんもんね」
「あはは・・・いつでも初めて観るように楽しめるじゃん、って今次くんには言われたけど」
年がら年中花畑の人は言うことが違う。
きっと人生さぞかし楽しいんだろうなあ。
もはや羨む気持ちすら抱くと、梶浦さんが「あっ、これ気になる」と小さく呟き、新発売と書かれた玄米茶を手にした。
なんて素敵なチョイスだろう、こっちまでのほほんとした気分になりながらレジに向かう。
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