225人が本棚に入れています
本棚に追加
みよ、このひょろい腕使い。
足だって内股だぞ。
なんなら「えいっ」とか言っちゃうぞ。
所詮ド素人がやったところで蚊も殺せない、つまらない芸だとわかればこの恐竜も飽きて別の獲物に目を向けるだろう。
祈りに近い目論見と共にクッションに食い込んだ鞭の先は、叩き付けるという擬音がふさわしい衝撃と窪みを作っていた。
えっ。なにこれ。
今ここに隕石でも落ちた?
ペフンッと気の抜けた音を期待していたのに、自分の行動とかけ離れた破壊力に呆然とする中、西奴さんだけが拍手をし始めた。
「はあ、改良版はやっぱりパワーが違う。非力な女性でも扱えるように遠心力を駆使した作りになっているから少し振るだけで力士の張り手くらいはべらべら」
不思議だわ、西奴さんの説明が日和くんの声で再生されてる。
ホント消費者の楽しみを常に考えておりますこと、と半分感心、残りは殺意を覚えながらゆっくりと梶浦さんの様子を窺う。
まだ牙を見せそうにはない穏やかな微笑みの裏を探りつつ「こんな感じでしょうかね」と問いかけると、くいっと首を傾げられた。
「鞭が宙で無駄な動きしてたよ。もっと体幹をしっかりさせて、力が分散しないようにしなきゃダメ」
そんな専門的に分析されたところで、今後の糧になる予定は全くないんですけどね。
と思っても、この場の空気で言えるのは「すみません」という呟きでしかない。
すると梶浦さんが不意に手を伸ばし、私から鞭を掴み取った。
あっという間に梶浦さんの手に収まった鞭がまっすぐ振り上げられ――
直後、鋭い風と音を伴い、じいんと足の裏が痺れた。
最初のコメントを投稿しよう!