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近衛と従者のやりとりにより誤解が解けたらしい俺は近衛に引っ立てられるようにして館に連れ戻されたのだった。
「寝衣姿のまま何処に行っておったのだ」
大層お怒りだったそうな太子は俺が館に戻ると、さして怒っている様子もなく言った。
既に太子は着替え終わり埴輪ファッションに身を包んでいる。
袴の膝の下辺りに結ばれたリボンがチャームポイントだ。
「箸を作っていた」
俺は掴まれた腕をさすりながら不貞腐れ気味に答えた。
イサ人は力加減を知らぬ者ばかりなのか。
「夕べ言っておった道具か。してそれは出来たのか?」
「出来たが落としてきてしまった」
「後で探しに行かせよう。ミズキも早う着替えろ。王の朝祀が終われば朝餉が来る」
「太子は祭祀をしなくて良いのか?」
俺はダイジン達が言っていたことを思い出して尋ねた。
「朝祀の殿は王しか入る事が許されていない」
「そうなのか。色々仕来りがあるのだな」
「ああそうだ。本来王が健在である間、子といえども祭祀を代わりに執り行うことはない。祭祀を政務と見ている大人共には分からぬだろうが」
「でも今までの太子は祭祀を行ってたんじゃないのか?」
「先代の王が戦で負った傷が元で長患いをし今上王が太子のまま祭祀を執り行っていたと聞く。なので今上王は逆に戦場に出たことがない。武の長も王であるのだがな」
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