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「だから返さねばならんと言っているだろう。女達に借りたのだ」
「何に使う!」
「何にって、これを作っただけだ」
俺は反対の手に持っていた箸を掲げて見せた。
「それで太子を暗殺するつもりか!」
「するか。これは食器だ。飯を食う為に使う道具だ」
俺と近衛の問答に女達が小屋から出て来て目を瞠っている。
その内もう一人近衛が門から駆け出して来て矛の先を俺に向けて突き出し女達が一斉に悲鳴を上げる。
「反逆するか!」
片手に刃物、片手に先端を尖らせた棒、客観的に見たら俺は危ない人かもしれないなどと考えている場合じゃない。
俺は即座に手にしていた物を離し両手を挙げ無抵抗を示した。
女達の悲鳴を聞きつけたのか門から続々と近衛が飛び出して来る。
「何をしておる!」
「此の者が武器を手にしておりました!」
駆け付けた近衛に、俺に矛を突き付けている近衛が答え
「誤解だ!」
俺は叫んだ。
「食器だそうです」
最初に俺と問答していた近衛が言い、皆が俺の足元に落ちている箸に視線を落とす。
「ハシというのではありませんか?昨夜その者が太子に作って見せると約束しておりました」
近衛だけじゃなく従者もきていたらしい。
「誠か?」
「はい。そんなことより早くその者を館へ。太子が大層お怒りです」
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