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まあ、俺も健全な一中学生だ。異性に興味を持ったりする。しかたない。
「近い」
俺は、照れてしまうのを隠すように右手で自転車を支えながら、左手で彼女の顔を押し返そうとする。
すると、それを読んでいたのか、彼女はすらりとかわし、俺の隣に立った。
「その格好を見るに、中学生?」
問われて、俺は頷く。
「ああ。中学三年だ」
そこで、初めて会話らしい会話が成立した。
そこからは、他愛のないことを話していた。
「これから受験だね」「勉強がむずくて自信がない」「努力すればきっと大丈夫」「努力は嫌い」「私も一緒」「嬉しくない」「いけず」「うるさい」
勉強のことを話して。
「晩飯なんだろうな」「オムライスがいい」「俺はハンバーグ」「男の子だね」「女に見えるか」「全然」「だろうな」「でも可愛い目をしてる」「母親譲りだな」「そうなんだ」「それでよくからかわれる」
晩飯や親の話をして。
「学校楽しい?」「楽しくない」「そうなんだ」「勉強して楽しいわけがない」「お友達とか部活とかは?」「愛想いい訳じゃないしだるい」
学校のことを話したりしていると、防波堤の突き当たりに着いた。
そこから左に行くと、家は直ぐそこだ。
「あ、もう着いたのかー」
彼女はそう言って、頭をかく。
そして、「じゃあね! 楽しかったよ!」と言って来た道を戻っていった。
俺が呼び止めるまもなく走っていき、俺は仕方なく家に帰った。
それからの帰り道。彼女は毎日現れるようになった。
今まで知らなかったが、彼女はここによく来ていたらしい。
そして、いつもこの防波堤だけ自転車を降りて歩く俺を不思議に思っていたのだとか。
「今日はいつになく暗い顔だね」
夕暮れの防波堤で、段差の上から声をかけてくる彼女は、俺の異変やらに直ぐ気がつく。
あまり人と話すのが好きでもなければ得意でもない俺は、なぜだかこの女にはよく話せていた。
「今日、テストがあったんだ」
そこまで言うと、彼女は何かを察したように「あー」と少し気まずそうに濁した。
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