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「なんで行ってないんだよ」
俺は、そこで一歩踏み込んでしまった。
彼女は、きっと聞かれたくないかもしれないというのに。
いや、聞かれたくないはずなのだ。それは表情を見れば分かることだった。
しかし、俺は聞かずにはいられなかった。
それは、彼女について少しでも知りたいという願いがあったのかもしれない。
もしかしたら、彼女に恋をしてしまっているのかもしれない。
まあ、俺も健全な男子中学生だ。ちょっとしたことで勘違いをしているのかも知れないし、そのせいで変に意識をしているのかもしれない。
「この話、やめない?」
こちらに振り向いて、困ったような表情で笑う彼女に、俺はしつこく質問をした。
「なんでだよ。あんたも、もしかしたら受験生で、こんなところにいないほうが良いかもしれないだろ?」
もしそうなら、俺はこの人の負担になるのかもしれない。
そう考えるだけで、少し自己嫌悪に陥りそうだ。
「実は、私ね……」
少し……いや、だいぶ神妙な顔つきになったかと思えば、寂しそうに笑って、彼女は言葉を紡ぐ。
「もう、死んでるの」
一瞬。耳を疑った。
アニメや漫画のように足がなかったりしているわけでもないし、透けているわけでもない。
俺が困惑していると、彼女は地面を指さす。
そこをに目を向けると、俺は目を見開いて言葉を失った。
彼女が立っている真下からあるはずの、影がない。
「私、学校って嫌でさ、ここで自殺したんだよ」
語り始める彼女に、俺は何も言えずに聞く。
「虐められて、嫌になって死んで。でも、ひとつ気がかりがあってさ。それが解消できないと、成仏できそうになくって」
寂しい顔で笑う彼女。
そんな顔をしてると、まるで。
「まるで、消えるみたいな言い方じゃないか」
そう、もう未練がないという笑みと、消えてしまう寂しさを合わせたような表情。
「うん。私の未練はもないんだ」
そういうと、彼女は沈んでいく夕焼けに目を向ける。
「私の未練っていうのはね、一年前に出会った人なんだ」
「うん」
「その人ね、あ、年下なんだけど、虐めを受けて死のうって考えてた私を見て、声をかけて来たんだって。優しく声をかけてくれたもんだからさー。ちょっと、気になって」
俺は、少し胸が痛むのを感じた。
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